自己紹介をお願いします。
蒔絵師(まきえし)の浅井康宏です。
浅井さんのお仕事についてお聞かせ下さい。
私の仕事は「蒔絵」という東南アジアに分布する漆(うるし)の木から採取される
樹液をを用いて、絵を描きその上に金粉を蒔いて表現する蒔絵作品の制作を行っております。
どのようにその作品をスタートしましたか?
15歳のとき蒔絵に出会いその美しさに衝撃をうけ、それからずっと蒔絵作品を
制作して来ました。
蒔絵に出会ってからは本当に夢中でした。私にとって蒔絵の作家を目指すということはたとえばFormula OneドライバーであるとかPremier Leagueで活躍するプレーヤーにあこがれることと同じように、かっこよくて自然なことでした。そこに伝統的な技法に対する古臭さや保守的なものを一切感じなかったのです。
20歳から日本を代表する蒔絵作家である室瀬和美氏もとで修行することができました。それから私の作品も格段に成長したと思います。
漆の作品のアイディアは、どこから来ていますか?
アイデアのヒントはどこにでもあると思っています。
草花の色や形、風景など常に私の作品に取り入れることができるように、あらゆるものを見つめます。もちろん、美術館に足を運びたくさんの物を見ることも、とても刺激になります。
どのよう発想をして漆の作品のデザインに落とし込みますか?
私が作品を作るときにまず考えるのは、15歳のとき一番最初に蒔絵の作品に出会ったときの感動を大切にしようと思っています。
つまり、漆の黒色と、蒔絵の金色の組み合わせです。
デザインにどのくらいかかりましたか?そして、漆の製作期間をお知らせ下さい。
私は10年以上毎日、日記のようにデザインを考えています。
アイデアを生み出す訓練だと思って、いつもノートを持ち歩いています。常に洗練されたデザインを生み出そうと日々努力しているのです。一年間に数百生まれるデザインの中から今の時代や自分の想いを表したものを選び蒔絵の制作をスタートさせます。ですので、もっとも新しいデザインにかかった時間は10年といえるかもしれませんし、私が生きてきた30年といえるかもしれません。
そして、蒔絵の制作はとても長い時間が必要になります。最新の作品は制作開始から完成まで約4年かかっております。毎日その作品に関わっているわけではありませんが、膨大な工程を経て完成にいたるまでには、やはり時間が必要です。
今回の新作はきわめて時間がかかった作品ですが、どんな小さな作品でも平均して4ヶ月から1年かけて制作しています。
浅井さんの中で、どのくらい日本的要素を取り入れて仕事に取り組んでいますか?そして、どのように日々、日本についてのインスピレーションを取り入れていますか?
私は蒔絵を通して沢山のことを学びました、特に日本文化の奥深さを知るたびにとても感動します。もともと日本には「工芸」という言葉はなく、部屋を彩る襖絵も身の回りに飾る立体作品も分け隔てなく生活に取り入れ楽しんでいました。
日本人は昔から、身の回りの生活の中に美を点在させ調和させることの得意な民族だと思います。生活様式が日々変化する現代に、私の蒔絵作品でどう新しいスタイルを提案できるか日々考えています。
浅井さんにとって日本の伝統工芸とは?
日本には信じられないくらい古い名品が、とても状態の良いまま残っていることが多いのです。土中から発掘されるのではなく、長年大切に使用されるなかで守られてきたのです。
正倉院宝物という奈良時代の皇族の宝物が日本における伝統工芸のスタート地点であります。その伝統工芸がスタートしたときから、物を作る情熱や、伝えてゆく意識は、何世紀たってもわれわれ日本人には脈々と受け継がれていると思うのです。
私は、過去の名品を見るたびに、変化し続ける時代の中で最先端の作品を作り上げようとする、当時の職人たちの情熱を感じ取ります。その情熱の伝達こそが、日本の伝統工芸の真髄だと思います。
何かのお知らせや、浅井さん個人のイベントなどありますか?
来年の春にグループ展があります。他のイベントなどは私のホームページやSNSなどで情報を発信してゆこうと思います。
最後に日本の工芸に興味のある海外の方に一言お願いします。
日本の伝統工芸はその技術の高さでとても海外から高く評価されてきました。蒔絵の作品も、あなたの国の美術館や宮殿に展示されていることと思います。
その技術や感性の歴史は終わったわけではありません。日本で、途絶えることなく、また、立ち止まることなく脈々と受け継がれているのです。
私の作品は、蒔絵という技法が生まれたときと、まったく同じ材料を使って制作しております。どれだけ時間とお金がかかっても、漆の木から採取される、たった一滴の樹液からスタートするのです。
何百年も昔から、多くの職人が蒔絵を海外に送り出したように、私は、あなたやあなたの国やあなたの信じる神のために作品を制作できる日を待ち望んでいます。