海藤博 – atelier K (Interview in Japanese)

自己紹介をお願いします。

多摩美術大学でガラスを専攻し卒業しました。その後、長野県の「あづみ野ガラス工房」で5年間働き吹きガラスの技法を中心に研鑽しました。新木場に新しく出来たガラスの専門教育機関で講師を11年間勤めました。その間、展覧会などを重ね2009年に埼玉県川越市に小さな工房を構えます。2010年からは東京藝術大学の非常勤講師を務め現在に至ります。

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海藤さんのお仕事についてお聞かせ下さい。

東京藝術大学で非常勤講師をしていますので、週の半分は大学で授業をしています。また、残りの半分はガラス作家としてガラス作品を制作して展覧会などをしています。工房には講座生も通ってきてくれていますので、そこでは吹きガラスの楽しさ、難しさを知ってもらえたらと思っています。

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ガラスに出会ったきっかけは?なぜガラスだったのですか?

多摩美術大学の授業でガラスと出会ったのが初めてです。特にガラスと決めていたわけではありません。授業のプログラムの一つとして扱っただけです。ただ、作業は1000℃を越える熔けたガラスを扱うわけですから、直接触れることもできません。熔けたガラスはトロトロ、フワフワして形も思うようにならず、なんとももどかしく思いました。そんな不思議な感覚の素材をどうにか自分の思うように形にしたいと、のめり込んでいったのです。

ガラス工芸制作のアイディアは、どこから来ていますか?

何気ない日常の中から生まれます。空の色の移り変わりを眺めている時や帰り道にふと綺麗な花が咲いているなと立ち止まったり、面白い形の石があるなと眺めてみたり、、、。そんな些細な事柄を目にとめて、ものごとの成り立ちや構造をゆっくりと探ります。そこここに何気なく存在する様々な要素がいろいろな形になってものづくりのキッカケになります。

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どのような発想をしてデザインに落とし込みますか?

アイデアの要素は様々な形で存在します。ほとんどの場合、簡単には素材や形に落とし込むことが出来ません。そういったアイデアのかけらを書き留めておいて、後でゆっくりと時間をかけて眺めます。何かの形になる時もあれば、まったく形にならない時もあります。けれど、長い時間がたった後で思いもよらず形になることもあります。その時々の自分の制作テーマや技術が向上したり、新しい試みを試したり、そういった変化の中で過去のアイデアのかけらが今の作品に繋がることがあるのです。

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作品にかかる製作期間をお知らせ下さい。またその中でもデザインに、どのくらい費やしますか?

作品によりますので一概に言えません。製作期間としては1ヶ月だったとしても、その為にアイデアを練って、テストをして、或いはいろいろな要素を拾い集めることに長い時間を掛けています。そういったことを考えると、1年とも2年とも言えるかもしれません。作品は少しずつ成長しています。制作の環境が変わって、技術も向上して、テーマも成熟して作り手と一緒に成長していくものなのかもしれません。

海藤さんの中で、どのくらい日本的要素を取り入れて仕事に取り組んでいますか?もし、取り入れているならば、どのように日本要素をインプットしていますか?

日本に住んでいるので普段日本を意識することはありませんが、海外のガラス作品とは明らかに違います。物の見方、考え方、テーマの展開の仕方の点で違いは大きいと感じます。具体的な形などでなく“視点”なのではないかと思います。また、色ガラスは海外からの輸入品を使うことが多いのですが、色についてはそのまま使わないで少し手を加えて落ち着いた色味を作り出すように気をつけています。最近ではお茶の道具を作る機会が増えました。実際にお茶を学んでみると、とても日本人らしい文化、考え方が込められています。そんな中で日本人を再認識することがあります。

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海藤さんにとってガラスとは?

長く付き合ってきた素材ですので、綺麗な部分も難しい部分も理解しているつもりです。しかしながら、それでも尚気づかなかったガラスの奇麗さに驚かされることがあります。ガラスという素材で自分の考え方や視点を見る人に伝えられたらと思います。

海藤さんにとって日本の伝統工芸とは?

ガラスを始めた時は伝統工芸というと型にはまったような古いもののように感じていました。ところが、制作を続けるうちに考えが変わってきました。作り手は誰もその時代時代の中で新しいものやその時代の感覚に合ったものを生み出そうとしてきたのだと思います。突然全く新しいものが生まれたわけではありません。今まであったものを少しずつ変化させ、自分の考えを込めて作ってきたのだと思います。それは先人も今の私達も変わりません。伝統的なもの今あるものをよく見て、その積み重ねと時間の流れの中で更に今何が出来るのか。それを考えるのが現代の私たちの仕事です。そんな風に考えると古きから学ぶことも多いですし、次の時代に何が求められているのかを考える糸口にもなります。伝統工芸の中で自分が作ることの意味を意識することは大切だと思います。

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海藤さんの展示会やイベントなど近日中にありますか?

Art Factory’s「粋」というグループでしている活動の一つですが、“パークホテル東京”で展示する予定があります。また6月には“器スタジオTRY”で個展があります。

http://atelierk-glass.net

最後に日本の工芸に興味のある海外の方に一言お願いします。

日本の工芸はあまり海外で知られていないかもしれませんが、海外の方々が見ても面白い物が沢山あると思います。2013年から私が参加しているArt Factory’s「粋」は、硝子、陶芸、木工、金工、書や日本画など様々なジャンルの作り手が集まって日本の工芸の良さを発信しようとするグループです。お互いに刺激し合いながら日本人らしい物作りを意識しています。